たとえば何かがなくなるとしたら、ぽっかり空いた穴をなにで埋める?
誰かと話す?
誰にもまだ話せないことは?
聞いてもらえる人がいないときは?
会話をする気力もあまりなくて、気の利いたことも今は何も言えないなって思って、1人でただ歩いた。


夜の散歩。
夜道。地図、電池なくなっちゃうから見ないで、
線路があそこにあるからたぶんこっちだろうなって思ってなんとなく歩く。
勘の練習。
家と家のすきま歩いて、途中眠くなっちゃったけど、
なんとか寝ないでてくてくと。


夜遅くまでやっている古着屋さんへ。
古い洋服たち、手で補修されたグレーのリネンのコートとか、ちっちゃいサイズの良くできたブラウスや上着、味あるラインの紺色の素朴なニットとか、麻袋とか、時代がよめるようで全然わからなくて、さまよいこんだこの感じにこのまま埋れたいって思いながら柔軟剤の香り。


そこはもはや服屋ではなくて、栄養を補給するための部屋。
養分染み込んでくなーって感じた。
着なくたって、見てるだけで触るだけですこし元気が出るなら大切なもの。
何がほしいのかわからない弱ったような気持ちになるときがあって、そんな時にそっと埋めてくれるもの、それにうまく出会えたこと、一生忘れないと思う。
そういうものが一生の財産になった。


そこのお店のマスターがとっても素敵な赤と黒の靴を履いていて、わっ!かっこいいと目をひいた。
マスターはいつもいい目をしていて、落ち着いていて、深い物を洞察するような目をしてる。
帰りがけに、「失礼ですがそれはどちらの靴ですか?」と尋ねてくださって、一瞬私何履いてたっけ?って真っ白になった。


靴、お気に入りの買ったばっかりのブーツ。
マスターはプラダの靴だった。
かっこいい。
そういう風にプラダを履くって素敵だな。
あの店で。


夜道と古着屋さんと、
夜中の喫茶店空いててよかった。
出会えてよかったなって思うものは、たいていやっぱり1人ぼっちの時にうまく見つかるから、
ホッとします。








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